映画感想 : ボーンズアンドオール
[あらすじ]
人を食べてしまう衝動を抑えられない18歳の少女マレンは、同じ秘密を抱える青年リーと出会う。自らの存在を無条件で受け入れてくれる相手を初めて見つけた2人は次第にひかれ合うが、同族は絶対に食べないと語る謎の男サリーの出現をきっかけに、危険な逃避行へと身を投じていく。
ルカ・グァダニーノ監督とティモシー・シャラメという事で、完全に『君の名前で僕を呼んで』の気分で見に行きました
裏切られた!といえばそうでもないし、想定通りだった訳でもなく
見てる間ずっと、「そういえばこの人『サスペリア』も撮ってたなぁ」と思うホラー展開
でも地は『君の名前で…』だよなぁ、と思いつつ、ホラーと青春ロードムービーの狭間をゆらゆら揺れている感覚で鑑賞していました
※以下感想 ネタバレ注意※
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最後のシーン、マレンはリーを食べたのだろうか
私は食べなかったと思います
最後荒野に2人が一緒に座っていましたが、あれは食べて一緒になったのではなく、マレンもその後死んだのではないかと考えます
マレンはずっと食人に否定的で、否定以上に拒絶していました
愛するものの頼みであっても、彼女は食べる事を選択しなかったと思います
特にずっと焦がれていた母に会ってから、捕食対象としてしか見られなかった事に絶望していたはず
彼女の家族を奪っていった食人衝動を愛する者に向けるとは考えにくいなと
そうであって欲しいと思います
最近目にする食人に関する創作物では、「食人は食われるものとの絆である」という事が描かれていることが多いです
最近見たDisney +ドラマ「ガンニバル」だと、食人は故人の弔い、小説「僕は美しい人を食べた」では愛の形としてそれぞれ描かれています
食われるものに情を移してはいけない、食うことこそが最大の敬意だとでもいうような
今回の作品では宗教的、儀式的な動機は描かれていません
この映画に出てくる食人者は、食われる人間にあまり思い入れがあるわけではなく、ただ衝動や飢えで人を食っています
ただ肉食獣が獲物を捕食するように、人間を「捕食」する、他の作品ではあまりない描かれ方ではないかと思います
多くの作品では「食べる理由」焦点が置かれ、それがテーマであったり、作品の重要な謎であったり、なにか「意図的に」やっているものとして語られる事が多いのではないでしょうか
この映画では、人種の違い、性別の違いなどと同じように、そう生まれてしまったから仕方のないもの、と説明されています
したがって、「人を食う理由」ではなく、「人を食う星の下に生まれてしまってどう生きていくか」という事がテーマになっているのです
この映画がホラー映画でなく青春ロードムービーの仕上がりになっているのは、「食人」という行為が、マイノリティの生きづらさや、若者が生き方に悩む様のように描かれているからだと思います
ホラーでもなく、ティーンムービーでもない、むしろどっちでもある作品
怖いもの見たさで行ったら、思わぬところに刺さりました
粘度の高い血が好きな人、好きな人を食べたい衝動に駆られる人におすすめです